レッドベルベットケーキを作ってみました。
Red velvet cakeはアメリカが発祥のお菓子で、名前の通り美しい紅色が目を引く華やかなケーキです。
上の写真では私が今回作った物なので赤色がよく出ておりません^^;
こちらはロンドンのティールームで食べたレッドベルベットケーキです。
携帯電話で撮った写真なので写りが悪いですが、こちらも赤い色はまだ控えめな方かも。
私がイギリスに滞在していた時にはカップケーキ屋にはもちろん、マーケットや洒落たカフェなどにもあの真っ赤なケーキが並んでいました。
ホールケーキからカップケーキ、クッキーにウーピーパイと赤色の生地をベースとし様々展開していました。
そんなイギリスでも市民権を得ているレッドベルベットケーキですが、初めて出会った時はなかなかの衝撃で、不自然なほどに鮮やかな赤いスポンジに白いクリームがのっていて、ビジュアルは日本人からしたら紅白でめでたい!という感じですが、素直にこれ何味なの・・・?という疑問でいっぱいになりました。鮮やか過ぎる赤色も気になる所。
赤いから苺味かな?ラズベリー味かな?もっと大人な赤ワイン味??などドキドキしながらいざ食べてみると、・・・ココア?
ココア味のスポンジにクリームチーズフロスティングがのっているものでした。
赤い見た目=赤色の食品の味と思い込んでいたので、赤いイメージのないココア味で拍子抜けしたというか、味は美味しいのですが、個人的にただ見た目を派手にしただけかという印象を持ってしまったのです。
しかしながら、名前の響きや見た目の美しさは間違いなく素晴らしいので自分でも作ってみたいなぁと思い調べてみると、見た目派手にしただけと思った自分は反省しなければならないほど興味深く奥の深い菓子でした。
<レッドベルベットケーキとは?>
菓子の歴史というものは調べてみると起源や詳細が不確かなものが多く、今回のレッドベルベットケーキについても諸説あるようです。
その中で興味を惹かれたことをまとめますと、
ケーキの基礎のとなるものは1800年代から作られており、あの真っ赤なレッドベルベットケーキとして人気になったのが1920~50年、そして近年に人気再来します。
一番面白いと感じたのは、昔のレッドベルベットケーキは名前は同じでも今のあの真っ赤な色はしていなかったということ。
アメリカの一般的な小麦粉は日本では中力粉の部類に入ります。蛋白量が多く食感が重くなりがちです。昔のこととなると製粉技術の違いもあったでしょうからもっと荒いものであったと予想されますし、強力粉で作っていたという記載もあります。
そこで小麦粉にコーンスターチやココアを混ぜることで食感を軽くするという方法が取り入れられ、口当たりが従来のものよりもなめらかになってまるでベルベットのようだ~ということで、それがベルベットの由来となります。
そして口当たりを柔らかくするためにバターミルクなども加えられ、ココアにバターミルクの酸が混ざることで化学反応が起きてココアが赤っぽい色になったこと、また、昔はブラウンシュガーをred sugarと呼んでいて、そのレッドシュガーを使って作られたこと、その2点からレッドの由来が来ているとのことです。
それらのことから本来のレッドベルベットケーキは赤っぽい色をした口当たりの良いケーキということになります。
時代が進むにつれて商業目的に赤色が添加されるようになり、今の容姿となりました。
ちなみに赤い色付けに使用される物は食紅とビーツという野菜が主流のようです。
こうなってくると昔ながらのレッドベルベットケーキとはどういうものだったのか、ということが気になります。
と、いうことで!
今回、着色しない昔のレッドベルベットケーキ作りに挑戦してみたいと思います!
レッドベルベットケーキに使われる材料は、
小麦粉、ココア、ベーキングソーダ、砂糖、油脂(バター、ショートニング、植物油など)、卵、バターミルク、酢、バニラ
配合は様々ですが、多くのレシピに上記材料が使われています。
なのでこの材料を使って作ってみようと思います。
そして、本来の赤色の再現にはココアと酸の化学反応により赤色を作り出すということがキーワードとなってきます。
そこで問題となってくるのがココアです。
ココアには製法が「ダッチプロセス」と「ブロマプロセス」という2種類あり、
ココアの原料であるカカオ豆は、収穫したカカオの実から種子を取り出して発酵させて作ります。
そのためやや酸性の状態のカカオ豆ですが、そのままナチュラルな状態で加工する「ブロマプロセス」では酸味と苦味のあるココアパウダーとなります。
酸性の状態にアルカリ処理を行って加工する「ダッチプロセス」では酸味や苦味が和らぎ口溶けの良いココアとなります。
日本では手に入りやすいココアはダッチプロセスによるアルカリ処理を行った物が多いです。
そこで!
アルカリ処理をしたものと非アルカリ処理のココアを買ってきました。
なぜならば、昔のレッドベルベットケーキに使われているのはこの非アルカリ処理のココアだからです。
酸性のココアにさらに酢やバターミルクなどの酸を加えることで強酸の状態になり、ココアに含まれるアントシアニンが赤色になるというわけです。
小学校の理科の実験でやった紫キャベツの絞り汁に酸を加えると鮮やかなピンクになった原理と同じです。
アルカリ処理のココアは近所のスーパーでお菓子作り用として売っていたものを買ってきました。
砂糖などが混ざっていない純ココアです。
非アルカリ処理のココアはネットで購入しました。
開けてビックリ、きなこが届いた!と疑うほどにベージュに近い薄茶色です。
そのまま粉を食べ比べてみると、
たしかに非アルカリ処理のココアは酸味と苦味とえぐ味が強いです。その後、カカオの良い香りがふわっときます。
流行りの産地別の味の違いをお楽しみください的なBean to Bar的なこだわりのチョコレートを食べている感じです。
いつまでも粉が口に残ることもなく、口溶けの悪さは特に感じませんでした。
酸味と苦味が強いですが、それが長く残るわけではなく、さらっと溶けていくので爽やかさがあります。
アルカリ処理のココアは酸味はほぼ無く、ほのかな苦味にチョコレートのような香り満載で甘さもあります。よく知っている安心安定のココアの味です。
驚きが口溶けの良さで、ものすごくなめらかです。
レッドベルベットケーキ作りへいく前に、ちょっと検証します。
ちゃんと本当に赤くなるのか、それがどの程度なのか軽く実験してみてみます。
ココア大さじ1に水分を小さじ2入れて混ぜ比べてみます。
常温では溶けなかったので全て10秒ほどレンチンしてます。
3つとも非アルカリ処理のココアです。
上から、水を入れたもの、酢(米酢を使いました)を入れたもの、バターミルクの代わりにヨーグルトを入れたものを作ってみました。
水を混ぜたもに比べて酢を混ぜたものは赤色が濃くなっています。
ヨーグルト入りは水入りと比べると色味は変わっていないように思います。
酢がココアの色を赤くする事に効果的であることがはっきりと現れています。
ヨーグルトに関しては酸が弱いのか、ヨーグルトの白によって色が薄くなってしまっているのかな?
また、レッドベルベットケーキに使われる材料に膨張剤としてベーキングソーダ(重曹)が使われています。
しかし重曹はアルカリの性質があるので、どのように色に影響を与えるか調べてみます。
レッドベルベットケーキのレシピでは酢とバターミルクを両方入れて作るものが多いので、
水、酢、ヨーグルトの他に、酢とヨーグルトを混ぜたものに重曹またはベーキングパウダーを混ぜたものを作ってみました。
重曹入りのものは黒っぽく変色してしまっています。黄色と緑が混ざった感じでしょうか。
素材を混ぜてレンチンした時にぶわっと重曹が反応して黒い泡を出していました。
ベーキングパウダー入りのものは変色することなく茶色を保っています。
また、ヨーグルト入だけのものより色が明るく赤が強くなっているような気がします。
菓子作りにおいて重曹を使う事は膨らます役割だけでなく風味の面もあるとは思いますが、
上記結果から今回の”自然な赤色を作り出す”という目的については不向きであるという判断になり、今回は重曹ではなくベーキングパウダーを使ってみようと思います。
ここまで実験してみてふと思ったのですが、たしかに酢を入れると赤が強くなるけれど、その色はアルカリ処理をしたココアとどの程度違うものなのか、もしかして同じ色なんじゃ・・・
という空振り疑惑が浮いてきたので、念のためそのあたりも比べてみます。
白色の陶器がアルカリ処理のココア
硝子の器が非アルカリ処理ココアです。
どちらも粉のまま、水で溶いた物、酢で溶いた物を作ってみました。
ここで別の発見が!
粉のグラムも加える水分の量も同じなのに状態が全く異なります。
アルカリ処理ココアはなめらなか流動状、非アルカリココアは硬めのペースト状です。
アルカリ処理ココアが菓子や飲み物に加工するのにいかに使いやすいかが一目瞭然の結果に。
肝心なのは色です。
一番赤くなる酢入りのものの色の違いはあるのか?
状態が異なるので判断がぶれますが、私の見立てでは非アルカリココアのほうが赤が強いように感じました。
これは、この結果ならいける!
検証結果から、”ココアから自然な赤色を作り出す”という目的においては、
・非アルカリ処理ココアを用いて酢を添加する
・膨張剤はベーキングパウダーを使用する
この2点を取り入れていざ実践です!
ということで、やっと本番、レッツ・レッドベルベットケーキ作り!
まずは牛乳に酢を入れて混ぜ合わせておきます。
バターミルクの代用品としてよく使われるのが、牛乳+ヨーグルトまたは牛乳+酢です。
そこで牛乳+酢でバターミルクの代用品を作り、そこへさらにレシピの酢を加えることで、赤く変化しやすくなのではという算段です。
バター、砂糖、卵を混ぜた合わせ、小麦粉にココアパウダーとベーキングパウダーを合わせてふるったものと牛乳+酢を交互に加えていきます。
比較用に一般的なアルカリ処理ココアでも作り、その一部は色粉で赤くしてみました。
型に入れて焼きます。
出来上がった生地の色が・・・赤っぽくなっていないですね。
火を通せば変わるのでしょうか?不安です。
さあ!焼き上がりました!
左より、
非アルカリ処理ココアに酢を加えて焼いたもの
アルカリ処理ココアを同じように焼いたもの
アルカリ処理ココアの生地に赤色粉を添加したものです。
さて結果ですが、、、色が、薄い。
色が薄い!赤色どこに行った!?
いや、真っ赤になるとは思ってはいませんでしたが、やや赤みのある茶色になると思っていました。
粉の色そのものの色で焼き上がっています。
なんてこった。
私は上であれこれなんだかんだとこねくり回して実験していたのは何だったのか。
ただのねるねるねるねごっこをしていただけとなってしまった。
赤っぽくすらならなかった・・・何がいけなかったのか。
実験ではココアと酢のみを直接混ぜただけでしたが、いざケーキにするとなると他に小麦粉、バター、砂糖、卵、牛乳と様々な材料が合わさること、味の面で大量の酢を投入できないこと。
そう簡単に単純じゃあないということですね。
スポンジの色が赤っぽくもならなかったことでちょっとやる気が削がれてしまいましたが、
昔ながらのレッドベルベットケーキにはもう一つ作らねばならないものがあります。
Ermine Frostingと呼ばれる小麦粉を使ったバタークリームです。Boiled Flour Frostingとも呼ばれています。
レッドベルベットケーキというと今はクリームチーズフロスティングが相棒となっていますが、クリームチーズフロスティングが出る前には小麦粉を使ったバタークリームでデコレーションしていたようです。
ではではErmine Frostingを作ってみます。
まずは牛乳に小麦粉を混ぜます。それを火にかけてペースト状にするのですが、今回は少量なのでレンチンしちゃいます。
ホワイトソースの様にとろっとしたルーになればOKです。レンジでチンだったのでちょっとダマになってしまったので濾しました。出来上がったものは完全に冷まします。
柔らかいバターに砂糖を混ぜてふわふわにし、そこへ牛乳と小麦粉のルーを入れてよく混ぜれば完成です。
メレンゲを使ったり卵黄を使ったりするバタークリームは食べたことありますが、この小麦粉のルーを使うバタークリームは初めてです。
もうこれ砂糖じゃなくて塩を入れればベシャメルソースですね。
完成したErmine Frostingです。
なぜ小麦粉と牛乳のペーストを入れるのだろう、かさ増しか?と思っていたのですが、出来上がったものを食べてみると、バターと砂糖を混ぜただけのものより小麦粉のねっとり感が足されることで口当たりがまったりとなめらかになって、甘さも穏やかになっています。
卵を使うものよりもあっさりとしたバタークリームです。
古臭いクリームとして今はあまり使われないようですが、これは良い!
小麦粉臭いこともなく、バターと牛乳のあっさりクリームなのでバニラや洋酒など香りや味付けが引き立つのではないでしょうか。
さあ、これで全てのパーツが揃いました。
あとは組み立てるだけです。
スポンジにバタークリームを絞って、サワーチェリーとミントで飾ってみました。
これで良い意味でオールドファッションなレッドベルベットケーキの完成です♪
本当はホールケーキ型の方がクラシック感が出たと思うのですが、試験的に作成した事もありカップケーキ型のミニサイズです。
せっかくなので合わせる飲み物は非アルカリ処理ココアでホットココアを作ってみました。
あまり赤くならなかったスポンジ^^;
ですが、ココアの風味が豊かです。
色味がでやすいようにとココアをレシピよりも多めに入れてみたので、食感はベルベットというよりちょっとしっかりめとなってしまいました。
一般的なアルカリ処理のココアと非アルカリ処理のココアのスポンジを食べ比べてみると、
一般的なココアのスポンジはチョコレートのような甘くて濃厚な味がやみつきになる美味しさです。
非アルカリ処理のココアはカカオの香りが豊かで、ほんのりとある酸味が個人的には味を複雑にしていて美味しいと感じました。
それぞれキャラクターが違ってどちらも美味しいです。
カカオの香りが抜群のココアスポンジをミルキーでまったりしたバタークリームが包み込んでくれています。
アクセントにのせた酸味のあるサワーチェリーが味の引き締め役になって良い感じです。
なんだか小さい頃に近所にあった昔ながらのケーキ屋さんで買って食べたバタークリームのケーキを思い出します。
クリームチーズフロスティングをのせたレッドベルベットケーキももちろん美味しいですが、このまったり優しい味のレッドベルベットケーキもなかなかのものです。
今はレッドベルベットケーキといえば鮮やかな紅色のケーキです。
今回ついでに赤の色粉を使って鮮やかな赤のケーキも作ってみようと挑戦したのですが、写真を見ていただいても分かるようにあまり赤くないですよね。
でもこれかなりの色粉が入っています。
私が使ったのは天然色素系の色粉だったので発色が良くない事とベースがココアで茶色が濃かったともいうのもあって、よく売っている小瓶のやつを2つ入れてもこの程度の色にしかなりませんでした。
天然色素といっても、大量の色粉が入っていると思うと…なんだかちょっと食欲が減ります^^;
実際に作ってみて、レッドベルベットケーキを赤くするのに野菜のビーツを使う方が多くいる理由を今回良く理解でしました。
着色料否定派ではありませんが、やはり不安なく安心して食べたいものです。
次回、ビーツが穫れる頃に赤いレッドベルベットケーキ作りにチャレンジしてみたいなと思います。
長々と書いてしまいました^^;
ここまでお読みいただきありがとうございます。